【ピックアップ】静岡のお茶産業
史上初の産出額1位陥落を経験した静岡のお茶産業。そんな逆境の中、お茶の可能性を模索し未来を創造する企業・人の挑戦を紹介します。
釜炒り茶がすべての始まり。
牧之原の自然とともに
持続可能なお茶作り。
釜炒り茶 柴本
静岡県牧之原市勝俣2695
牧之原市出身。静岡で珍しい「釜炒り茶」の研究を高校時代から継続するとともに栽培・製造・販売事業を起ち上げる。両親の茶畑を手伝いつつ、個人・企業向けのブレンド茶づくり、出張手炒り実演、茶栽培や製茶指導の他、海の見える茶畑でくつろぐ「茶の間」を着地型観光として牧之原の茶畑で提供する。
釜炒り茶 柴本の
グッジョブポイント
高校時代に出会った釜炒り茶への尽きない探求心。
釜炒り茶は主に九州の宮崎県北部で生産されていますが、日本茶の生産量では全国の1%と少量です。高校時代に釜炒り茶と出合い、興味や疑問が尽きず、気がついたら自然にのめり込んでいました。
静岡県茶業研究センターや宮崎県の茶園での研修や手伝いを通して得られた技術と、マイペースに続けてきた研究の延長で釜炒り茶製造用の道具を揃え、販売もするようになりました。熱い鉄釜で茶葉を炒り、揮発する水分で蒸すことで生まれる爽快な飲み口が釜炒り茶の特長。
手作りでは1シーズンに20kg作るのが限界でしたが、機械化することで1日に20kg生産できるようになり商品のバリエーションも増え、今は緑茶、烏龍茶、紅茶、番茶、お茶へ花香を着ける花茶など年間を通して多品種のお茶を作ることができています。
暮らしの中で気づく香りを牧之原でしか作れないお茶に。
釜炒り茶は透き通った水色、自然のカンロ飴のような甘味で後味もすっきり。無肥料、無農薬で草や虫、茶畑と周辺の自然と共に山羊農法で栽培しています。
お茶本来の味が濃縮され、一年間熟成させた茶葉を釜で炒ることで生まれる自然の香り。自分が提供できるお茶に必要としているもの……それはやはり自然です。牧之原の地域の自然や文化全体を楽しんでもらいたい。その一つが香るお茶。春は橙の花、秋はジンジャーリリー、冬はろうばいの花。香料に頼るのではなく、お茶本来の吸湿性を利用し、花そのもの香りをお茶に吸わせて作っています。
温暖な牧之原の気候で育ち、咲く花の香りに気づき、最初は作ることが楽しくて研究のつもりではじめました。結果売っていますが(笑)。暮らしの中で感じ取ることができる牧之原の香りがするお茶です。
お茶が脇役でも、「ここのお茶いいね」と言ってもらえる場作り
「茶の間テラス」は、駿河湾がすぐ近くにあって、富士山も間近に見られる最高のローケーション。ここは、訪れた人がおいしいお茶の存在に気づくきっかけになったり、本当にお茶が好きな仲間を増やしていく活動をしていきたいと思ってはじめました。
環境の違いで変わるお茶の味に興味があり、九州の厳しい環境で育つお茶作りからの学んだ5年間は貴重な体験です。その間、様々なお茶の味を目と鼻で確かめるために全国の茶産地を巡ったりもしました。
茶畑を間近に置くテラスで過ごす時間で牧之原の風土や気候を知ってもらい、魅力として伝えていく観光スタイルの一つになってもらえたら。個人農家としても茶畑にお客様が訪れることは今の時代に必要だと思っています。
茶の間テラスに訪れたお客様の満足度を聞きとってお茶作りに活かしたり、ここからの景色をSNSで伝えてもらったり。個人の農家がお茶を売るには、テイスティングができる場所と作る場所を連携させ、お客様を巻き込んでいくことに一歩踏み込まないと。農家が開業・運営するお茶のカフェも増えています。お茶の楽しみ方を変えていくこと。お茶をただの飲み物で終わらせず文化にしていきたいですね。
ここでお茶のペアリングやキャンプを楽しむなかで、農家とのコミュニケーションの時間を作っていければと思っています。お茶が脇役として在って、でも、「お茶いいね」と思ってもらえる……それが茶の間テラスの役割です。
お茶と農業をコンテンツとして提供すること。
手摘みも収穫も機械と手伝ってくれる人手があれば、高齢化する農家を継承する道のひとつです。ただ、
先行き不透明な時代に多様化を迫られる茶業で個人農家は将来を見据えた継ぎ方に気づき、興味を深めビジネスに成功を収めることが求められていると思います。
お茶を作っているだけでは気づけない、お茶と農業をコンテンツにして提供の仕方に踏み込んでみることで広がりをつくり、お茶の奥深さを伝えていく。味わい方を変えれば価値が高まり、それを嗜好するお客さんの生活も変わってくるはず。個人農家を継ぐには、今、これからやれること、やりたいことを続けていく。それはお茶の文化を継ぐことだと思っています。