1970年代前半の、小学3年生の女の子を中心に繰り広げられる、日常の様々なエピソードやハプニングを描いた少女漫画「ちびまる子ちゃん」。

日曜日の夕方に放送されるテレビアニメとしてもすっかりおなじみの作品ですが、その舞台となっているのが静岡市清水区(作品に描かれている当時は静岡県清水市)の入江地区です。

主人公であり、原作者でもある「まる子」ことさくらももこさんをはじめ、作品の登場人物たちが暮らしていた町はどんな町だろう…と、実際に清水区入江地区を歩いてみました。

カッパの伝説が残る巴川、子どもたちが遊んだ淡島神社



ちびまる子ちゃんの漫画・アニメの中で、川田さんというおじさんがこよなく愛し、守る川として描かれている巴川。

清水区の中心部からやって来ると、この川を渡った先が入江地区となります。今回の入江地区探訪は、清水銀座商店街の入口近くにある、稚児(ちご)橋を渡ってスタートします。

1607(慶長12)年、家康公の命令で初めて巴川に架けられたこの橋、橋が完成し渡り初めの儀式を行おうとしていたとき、突然川の中から男の子が現れ、渡っていったそうです。そこで、「巴川のカッパが童子に姿を変えて渡り初めをした」と噂になり、橋の名が「稚児橋」となったとか。現在、稚児橋の四隅にはカッパと童子の像が飾られ、江戸の昔の伝説を今に語り継いでいます。



稚児橋を渡りまっすぐ歩いて行くと、JRと静岡鉄道の線路を跨ぐ跨線橋があり、その跨線橋の途中に小さな駅舎を構えているのが、漫画・アニメの中では「清水駅」として描かれている、静岡鉄道の入江岡駅です。

駅の近くある淡島神社は、まる子とその同級生たちがよく遊んでいた神社の一つで、静岡市の指定天然記念物である、境内の大きなクスノキは、漫画・アニメの中にも「こくぞうさんの木」の名前で登場しています。

まる子たちの母校の近くには、江戸の昔の道しるべが…



入江岡駅や淡島神社を眺めた後、来た道を少し戻って入江2丁目交差点を左折、商店街を西へ向かって歩きます。この商店街、人通りは決して多くないのですが、この地でずっと営業してきた肉屋さん、魚屋さん、お米屋さん、煎餅屋さんなどの個人商店が並んでいて、いかにも昔ながらの商店街という雰囲気です。

漫画・アニメに登場するお菓子屋さん「みつや」もこの商店街にあったのですが、残念ながら今はお店を閉じてしまい、一般の住宅として建物だけが残っています。

入江3丁目交差点を越えてさらに進み、清水銀行のある交差点を左に曲がると、静岡市立清水入江小学校があります。ここが、まる子とその同級生たちが通っていた「入江小学校」です。



この学校、1873(明治6)年に開校し、1936(昭和11)年に現在の場所に移転してきたという、長い歴史を誇る小学校です。正門から東門の方へ回ってみると、道路に面して「入江の里史跡・伝説・文化財案内」の看板が掲げられ、多くの見どころが紹介されていました。

それらの見どころの中で、清水入江小学校に最も近いのが、「是より志ミづ(しみず)道」の文字が刻まれた古い御影石の道しるべ。東海道から分岐して、清水湊(しみずみなと)へ至る道の起点を示すもので、1697(元禄10)年頃のものではないか、と言われています。

この道標は、三百年以上の歴史を持つ清水の銘菓として知られる、「追分羊かん」のお店の脇に立っていて、古びた道しるべと江戸時代の茶店を思わせる古風な和風建築とが見事に調和して、そこだけ過去へタイムスリップしたかのような雰囲気が漂っていました。

まとめ


ちびまる子ちゃんが幅広い世代の人気を集めている理由の一つに、さりげなく昭和のノスタルジーが織り込まれていることがあるようですが、その舞台となった入江地区を実際に歩いてみると、昭和の面影が残されているだけでなく、さらに古くからの歴史もあちこちに刻まれた町であることが分かりました。

清水区には、エスパルスドリームプラザ内に、ちびまる子ちゃんの世界が楽しめるミュージアム「ちびまる子ちゃんランド」がありますが、ここを訪れた折には少し足を伸ばして、まる子たちが暮らしていた“本物の”町へも足を伸ばし、その空気を感じてみてはいかがでしょうか?

撮影:杉山直人

<ライター>

杉山直人
皆さんの小学生時代、クラスに1人か2人は必ずいたはずの「鉄道少年」が、そのまま大人になってしまったのが私です。飛行機やバスもこよなく愛し、これら公共交通機関に「乗る」ことを最大の目的として、各地に出没しています。



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